「時を編む」 (Zeitenweben)
士門 すいこう 和紙でつくる芸術
経歴
展示会

Foto © diálogo/Schult  アトリエの床には白と黒二色の紙が敷き詰められ、その上には202個の女性 の乳房が整然と並んでいる。また、部屋の隅には巨大な男性の足と力強い背中が 6つ立っており、さらには異様に大きな耳までもが目に飛び込んでくる──日本人 芸術家士門すいこうが新しい展示会に向けて黙々と準備を続けている最中であ る。ここにある人体模型は全て一枚一枚丹念に手で漉かれた和紙をふんだんに使 って彼女自身が仕上げたものである。彼女の新しい展示会『時を編む』 (Zeitenweben)は、ベルリン・フンボルト大学医学部(シャリテー)付属のル ドルフ・ヴィルヒョウ記念講義堂『ルイーネ(廃虚)』を舞台に企画されている が、彼女によって一つの芸術の場となるこの由緒ある講義堂に一歩足を踏み入れ る観客は、直観的に強い印象を受けることだろう。しかし、さらに歩みを進める
につれて、直接的に働きかけてくるインパクトの裏には、念入りに仕組まれた意 味が隠されていることにも気がつくはずである。
Toki o amu
Foto © diálogo/Schult

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士門のこれまでの芸術活動を一貫して支えているのは、華道が説く天円地方、 万物の原理と仏教典の精神である。禅仏教の知恵とポエジーは、近年ヨーロッパ で広い共感を得つつあるが、これには理由がない訳ではない。現在のポスト産業 社会においてますますグローバリゼーションが進むにつれ、全体社会の中で「自 己」を確保し続けることが次第に困難になりつつある。日常のありきたりな生活 に追い立てられていると、「私」という個性の存在を次第に信じられなくなって くるが、そうした人間には、複雑に絡み合ったものどうしの間にも調和が存在し うること、また現代社会にあってさえも己自身に精神を集中することが可能であ ることを示してきた禅仏教の精神は新鮮に感じられるのである。禅仏教が信じ難 いほど大きな魅力で多くのヨーロッパ人を引き付けてきた理由はここにある。伝 統的なアジアの文化と現代ヨーロッパが生み出す欲求とが出会う地点である。
Foto © diálogo/Schult

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講義堂に並べられる乳房や足のひとつひとつは、丹念に漉かれた和紙を念入り に一枚一枚重ねてできたものである。この乳房や足、背中や耳などを圧倒的な数 で、かつ繊細な配慮のもとに配置することで、講義堂全体はひとつの瞑想の場所 へとかわる。ここでは観客は自らの内面に立ち戻るよう促され、仏教は彼女の芸 術の中でその姿を現す。芸術を通して人間と自然の一体感を取り戻したいという 士門は、従来から彼女の基本であった日本の伝統芸術の手法に加えて西洋の近代 的な表現方法を取り入れ、十数年にわたる試行錯誤の末、その願いを表現する独 自の方法を編み出してきた。荘厳斉という栄誉ある称号が物語るように、京都の 芸術学院での長年にわたる彼女の修行は多くの人々の認めるところであり、1990年以降一貫してベルリン・フンボルト大学 で墨書の実技と東洋文字文化の 歴史を講義している。彼女の手法はきわめて独創的で、伝統的な書道技能を駆使 することはもちろんのこと、たとえば一度に何本もの筆を同時に動かせながら書  を画したり、墨以外の伝統的な顔料を使って色彩を加えたりもする。彼女が生み 出す作品にはまったく無駄がなく、すべてが彼女の緻密な計算と意図に従ってい るが、その過程で図らずも生まれる偶然という要素も、つねに芸術的なセンスと 繊細な配慮をもって作品全体の中に組み込まれ 、作品をさらに新鮮で魅力ある ものにしているのである。「時を編む」......... 乳房や足、肩などすべてもの にはひとつひとつ書が施され、色彩がそえられている。その内側には日本の伝統 的な形式に従って詠まれた詩(「俳句」)や仏教典からの引用が隠されている。 これらすべては、士門の芸術にすでに親しんでいる観客のみが理解できるものか もしれないが、巨大な耳足や強靭な背中などで埋め尽くされた『廃虚』にたたず んでいると、この空間に満ちている彼女の皮肉とユーモアが伝わってくることだ ろう。

Dr. Ute Tischler
(Translation: Taro Daikoku)

Logo Kunst Charité The paper installation "Toki o amu (time weaving)", an official event of "Japan in Germany" (1999 until September 2000), took place within the frame of the exhibition project "Vier Jahreszeiten" (Four Seasons) of Kunst Charité (Art Charité) from October 7 until November 3, 1999.

Exhibition data
Japan in Germany 1999 - 2000
© diálogo, Berlin, authors and photographers top of pageVita (nihongo)